急に。
身体中に圧力を感じた。

顔から両手を離すと、男が私を抱きしめていた。
男と目が合う。
男は、ほっとした顔で何かを言おうとして、思い直して口を閉じた。
私が下したしゃべるな、と言う命令を忠実に守ろうとしているらしい。


「何でもない……ただ……」


ただ、どうだと言うのだろう。
Mr.Dのことを思い出していただけだと答えれば、男はそれで納得するのだろうか。


「悪いな、一人にしてくれないか。退屈ならライラを呼べばいい。」

そっと男の身体を離す。
男は私を見ている。
仕方なく私は口元だけで笑顔を作る。
男はふいと部屋を出て行った。