……良ちゃん?
「歌恋は渡さない」
低く言った良ちゃんは、いきなりあたしの手首を掴んできた。
力強くあたしを引っ張ろうとする。
だけどあたしは、足を踏ん張り武内くんの方を向いた。
このまま武内くんの前から去るなんて、あたしには出来ない。
驚いたけど、武内くんはあたしに想いを伝えてくれた。
きちんと、返事しなくちゃ……
「武内くん」
小さく声を出すと、あたしの腕を掴む良ちゃんの力が少しずつ弱まっていく。
「ありがとう」
武内くんが勇気を出して言ってくれた分、あたしもちゃんと自分の気持ちを言わないといけないんだけど……
こういう時、どう言っていいのか、わからなかった。
「ちょっとびっくりしたけど、嬉しかった」
あたしが言うと、武内くんは困ったように笑った。
きっと、武内くんはわかっているから。
「でも……
武内くんの気持ちには答えられない」
夜中の住宅街は、本当に静かだ。
物音ひとつしない。
だから余計に、武内くんの切なく息を吐く音が大きく聞こえたんだ。



