「……歌恋」
「うん?」
泣かないって決めたのに、出した声が詰まってしまった。
「俺達、なんて無力なんだろうな……」
「…………」
我慢しきれない涙が、あたしの視界を奪っていく。
「夢持って前に進んでんのに……いざとなったら何の力も貸せなかった……」
「…………」
「ただ、見てることしか出来なくてさ……。俺……情けなくて……」
圭の嗚咽が増えていく。
鼻を何度もすすり、鬼の面から落ちた涙が砂浜を濡らした。
「俺……母さんに……何にもしてやれなかった……」
波の音が、ザァンと大きくなった。
強い風が吹き、あたしと圭の髪を左右あちこちに揺らす。
あたしは、Tシャツの袖で涙を拭いてから、思い切って圭のお面をはずす。
圭が慌てて手で押さえたけど、あたしの行動の方が早く、圭の真っ赤な目が現れた。
はじめて見る圭の腫れぼったい目が、頼りなくあたしに向けられる。
「何もしてやれなかったって……圭と稔くんは、おばさんの息子として生まれてきたじゃん」


