口元だけで微笑むおばさん。
あたしはおばさんが心配だったけど、あたしがいても何もしてあげられることはないので大人しく帰ることにした。
「歌恋ちゃん」
玄関のドアノブに手をかけた瞬間、おばさんに呼び止められ振り返った。
「また来年着られるように、きちんと浴衣取っておくからね」
あたしはドアノブに手を当てたまま、大きく頷く。
「また来年、必ず着せて下さいね」
ドアを開け外に出ると、大きな夕日が地平線に沈もうとしているところだった。
オレンジ色に染まる海の表面に、ユラユラと太陽が映っている。
生温かい風に運ばれてきた汐の匂いを大きく息を吸い込むと、とても心が落ち着いた。
海の匂いが落ち着くって、あたしってやっぱり島っ子なんだな。


