(一ヶ月……か)

 ステレオから聞こえてくるのはある意味二人に運命的な出会いをもたらしたとも言える、初めて彼と会ったときに貰ったCD。
 それを聴く事で初心に戻れるかもと思った叶子は、ベッドの上でまとまらない頭を抱え込んでいた。

「――?」

 突然鳴り出した携帯電話に体がビクッと跳ねる。彼からの着信だとわかると、嬉しい反面複雑な気持ちになった。

「もしもし?」
「あ、僕だけど。今日、今から時間ある?」
「大丈夫だけど。貴方は仕事じゃ?」
「うん、今日はリハーサルがあるんだけど、良かったら見においでよ」


 突然の誘いを受けた叶子は、電車を乗り継ぎ彼の仕事場へと向かった。リハーサルが行われるという会場に到着すると、聳え立つ近代的な建物を前に溜息が零れ落ちた。

「はぁ、凄いなぁ。って、……どうやって中に入るんだろう」

 入り口らしき所には警備員が配置されていて、どう考えても顔パスで入れる様には思えない。ジャックに電話をしてみても全く繋がらず叶子は途方に暮れていた。

(困ったな。ちゃんと入り方聞いておくんだった)

 携帯電話を片手にウロウロと辺りを徘徊していると、ふいに誰かに肩を叩かれた。

「――?」

 振り返ってみれば、彼のお抱え運転手のビルが二カッと笑いながら親指を立てて立っている。叶子は見知った顔にホッと胸を撫で下ろした。

「お迎えに上がったよ。その様子じ、ゃどうせジャックに何の説明もされてないんだろ?」
「そうなんです。有難う御座います!」

 ビルと共に関係者入り口から中へと入る。最初のドアを通り抜け、薄暗い廊下の中をしばらく行く。そして、分厚くて頑丈そうな大きな扉の前でビルの足が止まった。
 扉の向こうからは軽快な音楽に併せて時折歌声も聞こえる。その曲と独特な歌い方から、今回担当したアーティストだと言う事が音楽に疎い叶子でも判った。

「こっから先は関係者しか入れないから。あんたはここから中に入って」
「あ、はい」

 ビルはそう言うと、さっさと暗闇の奥へと消えていった。

 重い扉を体重をかけて開く。一気に中の空気がぶわっとぶつかり、一瞬目を閉じた。同時に大音量の音楽が耳を劈(つんざ)き、ビクンッと肩を竦める。

「──ひゃっ! ……え?」

 暗闇の中。目を凝らしてよく見て見ると、ステージの上で何やら指示を飛ばしているジャックを見つけた。