「!?」
手にしていたバッグが転げ落ち、さっき健人が拾ってくれた荷物が又地面に散らばった。両手を使って健人の胸元を押し返しても、以前エレベーターの中で無理矢理された時のキスの時とは比べ物にならない程の力で拘束されている様で、ピクリともしない。硬く閉じた口唇を抉じ開けるようにして、もっと中に入れてくれと健人の舌が歯列をなぞり上げる。つま先から頭の天辺までゾワリとした感覚が這い上がっていった。
「……や、めっ」
ありったけの力を振り絞り身体を捻るとやっとのことで口唇は解放されたが、すぐに健人が逃すものかと叶子を強く抱きしめ首筋に顔を埋めた。
「ちょっ、ちょっ、ヤダっ! 健人、止めてよ!」
恐怖で身体が凍りつく。まるで耳を貸さない獣の様になった健人は、その手を全く緩めようともせず次第に彼女の身体を侵蝕していく。叶子の胸を貪る手は、快感を得るどころか吐き気さえも引き起こされる。その手が進むのを阻止しようと手を掛けるが、妨害されまいと力を込めた健人の手に握り潰されるかと思うほど強く揉みしだかれてしまう。
「やぁっ! 痛っ!」
もがいてももがいても健人の腕から逃れる事が出来ず、彼の拘束の手が緩められるとは微塵も感じられない。
「も、離し……! ――!?」
次の瞬間、スカートのサイドスリットから侵入した健人の手が、太腿を這い出したのがハッキリと判った。このままでは健人のされるがままになってしまう。
そんな恐怖から一刻も早く逃れたくて、突き飛ばす事が出来ないのならと屈んですり抜けようと思い立ったが、そのまま地面に押し倒されて余計に分が悪くなってしまった。
(な、何コレ!? 何でこんな事になるの!?)
優に百八十センチ以上はある長身の健人の全体重が圧し掛かり、叶子はとうとう逃げ場を失ってしまった。しかも、倒れこんだ拍子に足の間に健人の膝が入り込み、太腿を這っていた手が閉じることの出来なくなった無防備な内腿に触れる。
「……いやっ!! ──んぅ!」
又もや健人の口唇が叶子の口を塞ぎ、チャンスとばかりに己の舌を侵入させる。叶子の舌を追い回すように、健人の舌が執拗に絡みついた。
(い、いや、誰か――助けて!)
「んんんん――!!」
声を上げようにも口を塞がれていてはまるで届かない。視線を横に向ければ通りで人が往来するのが目に見えていると言うのに、誰もこの薄暗い路地に目を向ける人はいない。
どうしよう、どうすれば?
誰の助けも得られない、自分の身は自分で守らなければならないのだと自覚した叶子は、健人の手の侵入を少しでも妨げる為に力を入れていた内腿を緩め、膝を軽く曲げると思いっきり空へ向かって蹴り上げた。
「ぐっ! いっ……、てぇーー!!」
それとほぼ同時に健人の舌に噛み付いた。
力なく崩れ落ちる健人を押しのけると、散らばったバッグの中身を拾いあげながらヨロヨロと立ち上がった。
「あ、あんたはね、別に私を本気で好きな訳じゃないのよ。ただ彼に負けたくないってだけの理由で、彼から私を奪ってやろうって思ってるだけなのよ。……そんなくだらない事で、私を巻き込まないで!」
そう吐き捨てると、股間を押さえもがき苦しんでいる健人を一人残し、叶子はフラフラと路地裏を後にした。
「──つぅ、」
さっき倒れこんでしまった時に、思い切り体重をかけられてどうやら足をくじいたようだ。じんじんと疼く足首を庇うようにして歩いた。
悔しくて、悔しくてたまらない。
何度も何度も手の甲で口唇を拭い健人の感触を消そうとするが、あの恐怖が消えるどころかどんどん色濃いものになってくる。
「……うっ」
──彼に会いたい。
暗くなった夜空を見上げると、目に溜まっていた涙が零れ落ちる。夜空に浮ぶ綺麗な月がジャックと会った日のことを思い出させた。
手にしていたバッグが転げ落ち、さっき健人が拾ってくれた荷物が又地面に散らばった。両手を使って健人の胸元を押し返しても、以前エレベーターの中で無理矢理された時のキスの時とは比べ物にならない程の力で拘束されている様で、ピクリともしない。硬く閉じた口唇を抉じ開けるようにして、もっと中に入れてくれと健人の舌が歯列をなぞり上げる。つま先から頭の天辺までゾワリとした感覚が這い上がっていった。
「……や、めっ」
ありったけの力を振り絞り身体を捻るとやっとのことで口唇は解放されたが、すぐに健人が逃すものかと叶子を強く抱きしめ首筋に顔を埋めた。
「ちょっ、ちょっ、ヤダっ! 健人、止めてよ!」
恐怖で身体が凍りつく。まるで耳を貸さない獣の様になった健人は、その手を全く緩めようともせず次第に彼女の身体を侵蝕していく。叶子の胸を貪る手は、快感を得るどころか吐き気さえも引き起こされる。その手が進むのを阻止しようと手を掛けるが、妨害されまいと力を込めた健人の手に握り潰されるかと思うほど強く揉みしだかれてしまう。
「やぁっ! 痛っ!」
もがいてももがいても健人の腕から逃れる事が出来ず、彼の拘束の手が緩められるとは微塵も感じられない。
「も、離し……! ――!?」
次の瞬間、スカートのサイドスリットから侵入した健人の手が、太腿を這い出したのがハッキリと判った。このままでは健人のされるがままになってしまう。
そんな恐怖から一刻も早く逃れたくて、突き飛ばす事が出来ないのならと屈んですり抜けようと思い立ったが、そのまま地面に押し倒されて余計に分が悪くなってしまった。
(な、何コレ!? 何でこんな事になるの!?)
優に百八十センチ以上はある長身の健人の全体重が圧し掛かり、叶子はとうとう逃げ場を失ってしまった。しかも、倒れこんだ拍子に足の間に健人の膝が入り込み、太腿を這っていた手が閉じることの出来なくなった無防備な内腿に触れる。
「……いやっ!! ──んぅ!」
又もや健人の口唇が叶子の口を塞ぎ、チャンスとばかりに己の舌を侵入させる。叶子の舌を追い回すように、健人の舌が執拗に絡みついた。
(い、いや、誰か――助けて!)
「んんんん――!!」
声を上げようにも口を塞がれていてはまるで届かない。視線を横に向ければ通りで人が往来するのが目に見えていると言うのに、誰もこの薄暗い路地に目を向ける人はいない。
どうしよう、どうすれば?
誰の助けも得られない、自分の身は自分で守らなければならないのだと自覚した叶子は、健人の手の侵入を少しでも妨げる為に力を入れていた内腿を緩め、膝を軽く曲げると思いっきり空へ向かって蹴り上げた。
「ぐっ! いっ……、てぇーー!!」
それとほぼ同時に健人の舌に噛み付いた。
力なく崩れ落ちる健人を押しのけると、散らばったバッグの中身を拾いあげながらヨロヨロと立ち上がった。
「あ、あんたはね、別に私を本気で好きな訳じゃないのよ。ただ彼に負けたくないってだけの理由で、彼から私を奪ってやろうって思ってるだけなのよ。……そんなくだらない事で、私を巻き込まないで!」
そう吐き捨てると、股間を押さえもがき苦しんでいる健人を一人残し、叶子はフラフラと路地裏を後にした。
「──つぅ、」
さっき倒れこんでしまった時に、思い切り体重をかけられてどうやら足をくじいたようだ。じんじんと疼く足首を庇うようにして歩いた。
悔しくて、悔しくてたまらない。
何度も何度も手の甲で口唇を拭い健人の感触を消そうとするが、あの恐怖が消えるどころかどんどん色濃いものになってくる。
「……うっ」
──彼に会いたい。
暗くなった夜空を見上げると、目に溜まっていた涙が零れ落ちる。夜空に浮ぶ綺麗な月がジャックと会った日のことを思い出させた。


