肩が冷えるのを感じ、温もりを得るために暖かい毛布の中に潜り込んだ。ふわっと持ち上がった毛布の香りがいつもと違う事に気付きゆっくりとその瞼を開けると、二人で寝るには手狭なシングルベッドから落っこちないように彼女の背中を抱くようにして自分も一緒に寝てしまっていた事に気が付いた。

「──。」

 華奢な肩を包み込むように抱き締めると、長くて艶のある髪に鼻先を埋める。鼻孔をくすぐるその髪についた匂いが自分と同じ匂いだと思うと、ほんの少しの照れが生まれた。
 彼女と一つになる事を諦めかけていたジャックは、彼女の勇気によって救われた。彼女がドアを開けてくれなければ、今この瞬間は訪れなかったのだと思うと感慨深いものがある。

 昨夜の事を振り返ると叶子へのいとおしさがぶり返してくる。まだ深い眠りに落ちている叶子をそのままきつく抱きしめ、今自分の腕の中にあるという現実を味わっていた。

 全く起きる様子の無い叶子の肩も冷え切っていて、毛布を少し上げて肩にかけて上げようとした時、叶子の背中がチラリと見えた。
 もっと見てみたくなり、毛布をかけてあげるどころか腰まで下ろした。長い髪を片側にまとめると、彼女の首筋から腰までをじっと見つめる。

(参ったな……背中までこんなに綺麗なんだ)

 横になって寝ている叶子はジャックが凝視していることに当然気付かず、すやすやと穏やかな寝息をたてている。肩と胸部が小さく上下する度くびれた腰を強調していて、扇情的な姿を魅せつけられ、頭がクラクラとしてきた。

「……っ」

 喉をゴクリと鳴らすと、そのまま傍らに眠る叶子の背中に吸い込まれて行った。

 華奢な肩を撫でさすりながら、白いうなじににそっと口づける。先程までの行為の激しさを物語るように、舌先には少し汗の味が感じられた。
 自分には無い独特な女の匂いにゾクゾク感が止まらない。全く起きる気配がないのをいい事にジャックは少しづつその位置をずらしていった。

 背中全体をジャックの口唇が這い始める。やがて、肩を撫でていた彼の大きな掌も、肩から二の腕を通って手の甲へと滑り落ちるては戻る、を幾度と無く繰り返している。次第に更なる刺激を求めだしたその掌は位置を変え、叶子の細い腰元から太腿へと移った。
 起きたら何て言われるかと思う反面、でも起きて欲しいという思いがジャックの頭を混乱させる。矛盾する気持ちとは裏腹に、その行為を終わらせると言う選択肢は毛頭無かった。

「……ん、――」

 彼女のぷっくりとした紅い口唇が薄く開いたかと思うと、くぐもった声が漏れ落ちる。少し意識が戻ったのか叶子は腕を背中側に回すと自身の背中に感じる感触の原因を探りだしている様だった。ジャックはすかさずその手を捕まえると、苦しくないように叶子の胸の前へと移動させる。そして、そのままその細い肩に吸い付いた。

「――は、ぁ、……」

 大きく深呼吸するかのようにして甘い息を紡ぎ始める。叶子は背中を向けたまま反り返り、添えられていた筈のジャックの手は振り解かれてしまった。振り解いて自由になったその手を今度は彼の首に回し、グッと引き寄せるとそのまま口唇を合わせた。たったそれだけの行為だと言うのに、ジャックの身体が疼き始める。熱を冷まさなければと思いつつも、叶子の方から舌を絡められると、どうにもコントロールが出来なくなっていた。
 このままもう一度身体をつなげられるのでは無いかと期待したジャックだったが、その期待も虚しく、目を瞑ったままの叶子の舌の動きは次第に緩慢になった。そして又、枕に頭を埋めてすやすやと眠りについた。

「あっ、――寝ちゃった?」

 思わず声に出てしまった。心底がっかりした表情を浮かべたと同時にジャックのキスの悪戯も終わる叶子の可愛い寝顔を見ていると無理矢理起こすのも可愛そうになった。
 寝返りをうち、ジャックの方へと向き直る。丸くなって寝息を立てている叶子を見ているだけで、上がりだした熱が徐々に落ち着きを取り戻していくのが判る。

「僕の可愛い人」

 そう言って、鼻先をちょんっと指でつつくと、叶子を毛布で包み込んで胸元に引き寄せる。彼女の温もりと一つになれた余韻に浸りながら、ジャックも静かに目を閉じた。