運命の人

「や、やめっ……」
「仕事上の関係のままでいたいんだよね? ……だとしたら、ビジネスはギブ&テイクで成り立つって事位知ってるよね?」
「っ!」
「僕は君に沢山与えた。豪華な食事はもとより君の会社にとっては大きな仕事もね。勿論、それらは僕がやりたくて与えたモノだし、見返りを求めるつもりも無かった。でも、君に対する僕の気持ちは君も気付いていたよね? それなのに、こうしてのこのこと家まで来てしまうなんて、オッケーって言ってるもんだと受け取るのが普通じゃない?」
「それは――」

 叶子は返す言葉が無かった。そんな風に捉えられても仕方が無い事をしているのだと自分でもわかっているからだ。

「本当は優しくしたかったけど……。君が僕の事を恋人でも友人でも無く、ビジネスパートナー以上に僕の事を見る事が出来ないって言うのであればまた話は別だね。さて、一体、君は僕にどんな利益を与えてくれるんだ?」
「そ、そんな、の」

 トーンが全く変わらない声と冷たい言葉の数々とは裏腹に、少し苦しそうに顔を歪めている彼の表情が何処か引っ掛かる。きっと彼はそんな事を言いたいわけでは無いのだろう。と、心の何処かでまだ彼の事を信じている自分が居た。

「や、やめ……っ」

 彼の荒々しい息遣いが聞こえ、アルコールの香りが辺りに立ち込める。獣と化した彼は叶子の制止も聞き入れず、目の前にある獲物に照準を合わすと両手を捕らえて彼女の自由を奪った。
 豹変した彼に少なからず恐怖を覚えた彼女は、先程までは受け入れていた口づけも拒み続けるが、顔を背けた拍子に彼の口唇は首筋へと下降を始めた。

 叶子に拒む権利はなかった。彼の言う通り、確かに思わせ振りな態度や言葉を発したのにも関わらず拒絶するなんて最低だ。自分でもそれは判っていたが、彼に一方的に振られたあの日の事や、カレンに言われた二人の関係。マイナスの要素が脳裏に浮かび、それらを消し去る事が出来なかった。

「やっ、……ぁ……」

 まるで噛むようにして与えられる愛撫が、今の彼の心情を表しているかのようにもとれ、自分のせいでそうなってしまったのだと責任を感じた。
 ぴったりと身体が合わさっていることで、太腿に当たる硬くなった彼がわかる。その事に気付いたと同時に叶子は覚悟を決めたかの様に全身の力を抜いた。
 抵抗が収まったのが判ったのか彼は叶子の両手を解放すると、自由になった両手が今まで触れられなかった部分へと一斉にその触手を伸ばし始めた。

「……っ」

 柔らかな双丘を揉みしだかれ、暴れた為に捲れ上がったスカートからは肉付きのいい太腿が露出し、空いている方の彼の手がここぞとばかりにそこを撫で上げる。
 じわりじわりと迫り来る恐怖に背を反らすと、胸に伸びていた手は叶子のシャツの裾まで下り、それを一気に捲りあげた。

 少し暗めではあったが煌々と点いたライトの下で晒される羞恥に耐え切れず、目をぎゅっと瞑り下唇を思いっきり噛み締めた。

「――! ……、――。」

 すると、先ほどまではせっつく様に動き回っていた彼の手が、急にその動きを止めた。