だけど、なぜここにいるのか分からない。 ここは、彼の知らない本宅のはずなのだから。 頭は混乱したまま、動けないでいた。 「何で、逢いに来ないんだよっ」 そんな時、切なそうな声で彼は言った。 そんな声で言わないで。 逢わないと決めた心が、簡単に崩れてゆくから。 「千紗は、逢いたくなかったのかよっ」 そんなことないと、思わず首を振った。 だけど、逢いに行くことなど出来なかった。