自分の世界に集中している妹に、想一郎は話しかけた。

「お前さぁ、いきなり職場来るなよ。今日突然来て兄ちゃんびびったじゃん。
要は可愛いんだから、目つけられたら俺超ヤダし」

無視される覚悟で言ったが、以外にも返答があった。

「だって、必要だったんだもん。――てゆうか、キモイ」

ふてぶてしく言った要に、想一郎は、はあ――と長いため息をついて今日の妹の言動を叱った。

「あのなぁ――突然来て「この指紋も調べろ!」って言われた時の俺の気持ちを考えてくれよ? この前の指紋検査も血液検査もバレずにやるの大変だったんだぞ。まあ、この前渡された指紋の中に該当する人物がいたから、すぐに誰のか解ったけどさ」

「ありがとう、あに」

ぶつくさと言う想一郎に、要は軽くお礼を言って、意気揚々と部屋に戻った。その姿を、想一郎は疲れた様子で見送った。




一週間後――
「何だかなぁ……。もうこんなお守り意味無いかもねぇ」

放課後の廊下で要がぼやく。

「そうよ。結局あの紙の彼女もいなかったし、あれはただのイタズラだったのよ。さっさと捨てちゃったら?」

あかねがそう勧めると、秋葉も便乗した。

「そうだぜ。ただ落ちてて血がかかっただけかも知んねぇし、何か縁起悪いと思わねぇか?」

「でもねぇ、もしかしたらって事もあるし」

「でも、要ちゃん、いつまでも、こだわってても……」

おずおずと由希が言うと、あかねは息巻いて言う。

「そうよ、由希の言う通りよ。いつまでもこだわっていると真実が見えない事もあるじゃない!」

あかねの後押しがあって、要はうんと頷いた。

「……だね! じゃあ、これどうする? 捨てる? でもさ、捨てるのも、何か罰当たりな気がしない?」

「するわね……確かに」

「……うん」

要の意見に賛同した3人は、要と共に「う~ん」と唸りながらどうするかを考えていた。

すると、秋葉が「あ!」と大声を出し、驚いている3人の顔を見つめてから提案をする。

「『捨てる』んじゃなくて、とりあえず『保管』しておいたらどうだ? もしかして、また使う時があるかも知んねぇじゃん」

「そうね、確かに。でも、どこに隠すの?」

あかねの質問に秋葉はこう答えた。

「そうだな……時計塔の中とか」

「それ良いかも!」

要が息巻いて賛成すると「そうね」「うん」と賛成の声が上がり、お守りは時計塔の中に隠されることが決定した。

それから15分くらいして、要達が時計塔から周りを気にしながら出てきた。階段で疲れたのか、要とあかねは息を切らしている。

「きつ!」

愚痴をこぼしながら要達はその場を去った。
しかしその姿を、ひっそりと木の陰から見ている者がいた――。