夏生が怒っているのが、スプーンの動きでよく分かる。皿のアイスはすでに、舐めるように綺麗に皿からスプーンへ移動している。
「なんで?」
「仕事が忙しい。しょっちゅう出張してるんだ。家に帰らないと結婚なんて意味ないだろ」
「そんなの自分が社長なんだから、シフトくらいなんとでもなるじゃん」
 夏生はそれに対して、意見を述べようと息を吸ったので、
「正美は?」
 と、先に夏生を鎮める。
「俺は……結婚しない」
「えー、なんでー? まあまだ23だから仕方ないけど……」
「俺は一生結婚しない。独身でいる」
 テーブルを見つめ、こちらを見ようとはせず、同じ言葉を二度も繰り返した。
「え、なんでよ。独身主義者?」
 こういう正美は珍しいので、興味が湧いて、突っ込んでみる。
「……たぶん」
 いつもの表情に戻っていることで、答えをはぐらかされたのがすぐに分かった。
「今若いからそう思うだけだろ」
 夏生はどうでもよさそうに、口をナプキンで拭いて、溜息をつく。
「多分ねー。皆が結婚し始めて、結婚式とか行くようになったら、おいてけぼり感感じるよ、絶対」
「今のお前みたいにか?」
 夏生の仕返しだ。
「私は、一人の時間を楽しんでるだけなの、夏生兄さんと同じでねー」
 香月は皿にスプーンを丁寧に置いて、グラスのクランベリージュースを一口飲んだ。
 突然、沈黙になる。みんな満腹で喋る気がしなくなっただけだろうが、香月は頭から結婚のことが離れず、
「……けどもし皆結婚しなかったら、寂しいね。誰も子供いないってなんか」
 他人事のように言った。
「お前が産めばいいじゃないか。いい男探して」
 夏生も無責任に発言してくる。
「…………そうだね……」
 子供を産む……か。
「40くらいまでしか産めないぞ」
 夏生の言葉にはいちいちムッとくる香月であったが、それが、兄弟愛故のことであると、もちろん心では分かっていた。