電車に乗り込む男がいた。
その男はおぼつかない足取りで電車内に入ると、私の隣の座席に座った。
「よう。久し振りだな」
私は本を読み続けながら答えた。
「……痩せたな、お前」
「あぁ。そろそろお前の体重の半分くらいになるな」
ハハッと乾いた笑い声が小さく聞こえた。
「俺も弱ったもんだ」
「外に出るのか」
「……あぁ。悪いな、今まで……苦労をかけたな」
泣いているのか。
震える小さな声に、私は笑ったような声で呟いた。
「お互い様だろう。……またどこかで会ったら、今度は酒でも奢ってやる」
「…………あぁ、楽しみにしてるわ」
電車が止まる。
男はゆっくりと電車を降りて行った。
まさかあいつが外へ出るなんて。
男は私の古い友人だった。しかし、もう彼が外に出た以上、もう友人ではなくなった。
外から大きな悲鳴が聞こえる。
「誰か、誰かぁ!!」
窓から横目で見るとさっき話していた男がホームで人に囲まれ、倒れていた。
電車が走り出す。
私はなんとも思わなかった。しかし、心のどこかで、悲しんでいる自分がいた。