俺の言葉に、妻は少し目を見開いて、すぐに首を横に振った。
「そんなこと…あるわけない。入院してるときから私、ずっと心配だったのよ。あなたが塞ぎこんでしまうんじゃないか、明日香とうまくやれるのか。明日香は母親がいなくなっても大丈夫か…」
死を覚悟したとき、真っ先に思い浮かんだのは、俺たちのことだったと言う。
「死んでも死に切れないって、本当にそう思ってた。天国で天使にならないかって言われたとき、迷いなく受け入れたのは、羽がキレイだったからなんかじゃない。ただ純粋に…―」
あなたと明日香に会いたかったから。
そう言って、妻は子供のように泣きじゃくった。
俺に新しい誰かと結婚してほしいと思ったのは真実。
でもそれは、明日香の将来を思ってのことであって、本音じゃない。
大事な家族を、誰にも渡したくなんかない。
夫と娘が心配で心配で、ほかの誰かじゃなく、いつまでも自分がそばで見守っていたい。
それを可能にしてくれるのが、天使になるという選択肢だった。



