涙の訳を聞いてみれば、あのとき、というのはどうやら病室でのやり取りのことを言っているようだった。

「私、早く新しい奥さん見つけてねって言ったでしょ」

妻は流れる涙を拭うことなく、話し続けた。

「なのに今、あなたが私のいないところで女の人と仲良くしてるんだって思うだけで苦しくなるの」

「女の人って…相手は明日香の友達の母親だぞ?新しい恋人とか、そんなんじゃ…」

「わかってる!…わかってるのにこんなだから、自分に嫌気がさしてるの。あなたに怒ってるんじゃない」



妻の顔は、複雑な感情が入り乱れてゆがんでいた。

彼女は、自分の中の理性と感情が一致しなくてもがいている。

俺が明日香の友達の母親のことを口にしただけで激しく嫉妬してしまった自分に、戸惑っている。



「…俺たちに会いに来たこと、後悔してるの?」

はらはらと涙をこぼす妻に言った。

そんな気持ちになるのなら、さっさと成仏なり生まれ変わるなりして、死後の俺たちのことなんて知らないままでいたほうが良かったんじゃないかと思った。