ダイダロスの翼

「行かない……なんでだ?」


尋ねるレイノルドに、トールは居住まいを正して答える。


「俺は『ダイダロス』だからだ」


「……俺もダイダロスの一員だけど」


レイノルドの指摘に、だがトールは首を横に振る。


「俺が言っているのは、神話のダイダロスの方だ。

羽と蜜蝋で翼を作ったダイダロスは、翼が熱に弱いことを知っていた。

だから彼は、太陽には決して近付かない。

……たとえイカロスが高く飛んでも、だ」


目をつぶり大きく息を吐いて、トールは再びレイノルドと目を合わせる。

疲れたように、彼は笑った。


「お前の言うとおりだよ、レイノルド。

俺は迷うのが怖い。

町へ行くのも、住民と会うのも怖い。

俺の解放計画に『欠点』があることは分かりきっているからだ。

それに俺は、『欠点』に気付いてなお進めるほどには強くない。


だから俺は、町へは行かない。

『欠点』を気にしすぎて飛べなくなることより、多少犠牲があっても計画を進める方を選ぶ」


でも、とトールは続ける。


「だが……お前まで俺に付き合う必要はない。

住民だろうが監視者だろうが平気でぶつかってきたお前は、太陽も、町も恐れなかった。


だからお前は」


そこでトールは言葉を切り、一拍置いて一気に吐き出した。


「だから……レイノルド。

お前はダイダロスを辞めるんだ」