ダイダロスの翼

森の奥にある野営地。

ひたすら暗い、閉じた場所。


なぜそんな所に閉じこもっているのか、レイノルドには分からなかった。


布と鉄骨でできた天幕の中、夕食を食べながらレイノルドは口火を切る。


「今度、町へ行かないか。

俺だけじゃなく、3人で」


まるで週末のレジャーを提案する子供のように、ものは試しで言ってみた。

その言葉に効果はあったらしく、保存食だらけの食卓から一瞬、咀嚼の音が消える。

やがてものを飲み込んだマリーナは、長いまつげを持つ目を細めてゆっくりと口を開いた。


「……言うと思った」


非難というより、「とうとう来たか」といった納得に近い声音。


トールはといえば、まだもぐもぐと口を動かしながら、だがそれでもじっとレイノルドの目を見つめている。


2人の様子に、レイノルドは見覚えがあった。

ダイダロスへの加盟を伝えた時の、両親の反応と似ている。


「レイノルド」


ゆっくり食事をしていたトールがようやく口を開く。


頭のいいトールにとって、レイノルドの提案は予想の範囲内。

だからあらかじめ答えを考えていたはずだった。


それが本音の答えかは分からない。
偽りかもしれない。

だがトールの目付きを見たレイノルドには、答えを出すまでに彼がどれほど時間を要したのか、それは分かるような気がした。


トールの視線は、しっかりとレイノルドをとらえている。



「俺は」


落ち着いた強い声が、響く。


「町へは、行かない」


きっとそれは、彼なりの決意だった。