ダイダロスの翼

「……この間、部下が撃たれたわ。

はずみで、事故みたいなものだった。

決まりを守る理由はあるけれど、違反に理由なんてないわ。

ほとんどが『なんとなく』だもの」


「どうかな。

それはお前の思い込みかもしれないだろう」


肩をすくめてたたみかけると、瑞緒は考え込むようにうつむいて、やがて顔を上げる。


「そう……かも、しれないわね」


下を向いていた目が、ゆっくりとレイノルドを捉えた。

月明かりに照らされた瞳は濡れていて、今にも泣きだしそうに見える。


「……泣くなよ」


「泣いたりなんかしないわ。

私は残酷だもの」


「へえ、自覚があったのか」


「よく言われるだけよ」


どうやら言われるだけで、自覚してはいないらしい。

レイノルドはどうしたものかと頬を掻き、迷ったあげく少女の頭へ手を置いた。


「泣くなって。

たぶん本当に泣きたいのはお前の部下だぞ。

どうせ見舞いにも行ってないんだろう」


「……ええ。

私が行ったところで、早く治るわけじゃないもの」


「どうだかな。

会ってにっこり笑ってやれば、痛みくらいはひくと思うが」


レイノルドの置いた手の下で、瑞緒がきょとんと目を丸くする。


「そうかしら」


「そうだと思うぞ」


すっ、と、頭痛が消えた。

山の向こうで花火が上がり、束の間、瑞緒の笑顔を照らした。