ダイダロスの翼

土手には、腰へ届くような長い雑草が生い茂っている。

そこを難なく踏み越え、レイノルドは瑞緒のもとへ駆け登った。


瑞緒の立つアスファルトの道は、川や周囲の町並みよりも位置が高いため見晴らしが良い。

障害物がない分、闇が広く感じられた。


「みんな、どうして決まりを守らないのかしら……私には理解できないわ。

あなたが銃を持たなくなったように、簡単に守れる決まりなのに」


子供のように、澄んだ声だった。

瑞緒はいつでも単純。

決まりは守らなくてはならない、だから、守れない者を消し去る。


「……言っておくが、俺は『決まりだから』銃を手放したわけじゃない。

こんな平凡な町に銃を持ち込むのは不粋だと思っただけだ」


「いいわよ、それで。

決まりがきちんと守られればそれでいい」


「そうか。

……まあ、守る理由も破る理由も、つけようと思えばいくらでもつけられる。

あまりあてにはならないか」


トールは、住民の自立を助けるために銃の密輸を提案していた。

それが嘘だとは思わない。

だが、本心だったという確証もない。

人権保護は建前で、単にレイノルドの上に立ってみたかっただけかもしれないのだ。


「理由はあてにならない。

だが、参考にはなる。

話をして、触れてみて、多くを知ることは理解につながるからな。

俺は町で、自分とは異なる考えを知った。

お前はどうだ?

銃口を向ける前に、相手の言い分を1度でも聞いたことがあったか」


「……」


沈黙が降りる。

瑞緒の眉が、ほんの少し歪んだ。


理由は分かっている。

頭痛のせいだ。

レイノルドの頭も、瑞緒につられてきりきりと痛み始めていた。


「……この間」


ぽつりと、月の雫のような声が落ちた。