ダイダロスの翼

「監視班……瑞緒に?

そりゃ、事情を説明して命令すればやってくれるだろうけどさー。

それは彼女の仕事じゃないでしょ」


打ち込みに集中できなくなったのか、所長は回転イスの背もたれによりかかると、眉をひそめたままぐるぐる回りだした。

駄々っ子のようなその様子に、研究員は困ったように肩をすくめる。


「じゃ、どうするんです」


んー、と所長はうなりながら一際勢い良く回転した。


「推定される影響の詳細、分かる?」

「それならここに」


研究員からレポートを受け取り、素早く目を通す。


「あーあー、好き勝手やってるねぇ。

しょうがないや。

班を新設して、拘束してもらおう。

就任するまでは泳がせておけばいいよ、後で外部因子の影響自体を研究するか、行動を分析してフィルタリングかけるから」


「では、そうします」


ほっとしたように表情を緩める研究員。

さっさとパソコンに向き直った所長の背中に、ついでといった様子で声をかける。


「所長は本当に、研究に関しては頼りになりますね。

いつだって研究第一で。

何か理由があるんですか?」


その問いに、所長は鼻で笑って応える。


「後付けの理由なんて、僕は知らない。

僕達が対処できるのは今と未来だけなんだから、

理由なんて関係なく、今できることをやるだけだよ」