ダイダロスの翼

文字を打つ音に、不意に鈍いノックの音が混じった。


「所長、失礼します。

少々相談したいことが」


「何ー?

最近町に出入りしてる外部因子のこと?」


部屋へ入ってきた白衣の研究員へは一瞥もくれずに、所長は間延びした声を返す。

口を動かすたびにキーを打つ速さが落ちて、所長は少しいらついた。


「はい、そうです。

おそらく、毎日怪文書を送ってくる『ダイダロス』の、一員でしょう。

これ以上町に介入されると、研究への影響が誤差の範囲を超えます。

……監視班に、排除するよう指示できませんか」


研究員はため息混じりにそう訴えた。

この島には、あらゆる研究のエキスパートが集まっている。

皆、研究熱心であり、総じて研究の邪魔をするものには厳しい。


所長も邪魔者には容赦がないのだが、彼の返事は渋いものだった。