振り返ると、ジャージ姿の中年女性が、犬のリードを引きながらもの珍しそうにこちらを覗き込んでいた。

レイノルドの、体格のいい金髪の容姿は、アジアの田舎道ではさぞや目立ったことだろう。


「イギリスから。

ちょっと遠出してきたんですよ」


答えると、その女性は嘆息してレイノルドを上から下まで眺め回す。

どうやら品定めをしているらしい。


「わざわざ外国からねえ。

確かにここは本土より暮らしがいいけれど、でもまあ、物好きな人もいるもんだね」


「物好き?」


尋ねると、女性は大仰にうなずいた。


「そうだよ。

どうせあんたも本土で職を失って、ここに来ることにしたんでしょ?」


「……はあ」


「最近の若い者は、『研究なんて気味が悪いから島を出たい』って言うがね。

参加するだけでまともな暮らしができるんだから、分をわきまえた方がいいと私は思うね」


一方的に話す女性の言葉に、レイノルドは首を傾げる。


「あなたは、研究が嫌ではないんですか?」


「嫌じゃないってわけじゃあないがね、まあ仕方ないってところかね。

見られているかどうかなんて、私らには分からんし。

だったら、まともに働けるここの方が良くないかね」


「……そういうものですか……」


この町の住民は、研究に対して様々な考えを抱いているらしい。


実験台とされることを厭う者がいる一方で、たいして興味を持たず気にしない者もいる。


ふとよみがえったのは、懐かしい声。


『レイノルド、ダイダロスなんかに入るんじゃない』

『お前の信じた道を行きなさい』


様々な考えの者がいる。

町の内でも、外でも、それは変わらない。