ダイダロスの翼

ずいぶんと歩いた先。

闇が吹き溜まったような暗がりに、若い男が1人立っていた。


タバコの吸い殻がいくつか、足元に転がっている。


瑞緒は一直線にその男の方へ歩くと、いつもの冷めた声を放った。


「武器の所持は禁止。

今すぐ銃を手放しなさい」


「……あ?」


「あなたの銃を、私へ渡しなさい」


闇の中で、2人は本来町に存在しないはずの銃を所持していた。


男は気怠げに少女をにらむ。

ため息をつきながらおっくうそうにホルスターから銃を抜いて、


「これのことか?」


安全装置を解除した。

そのまま、銃口を瑞緒の眉間へ向ける。


「ガキは帰って寝な」


当然といえば、当然の結果。

銃を前にして、瑞緒が小さく息を吐いた気配がする。


「そう。……守らないのね」


ほんの少し、寂しそうに。


わずかに肩が揺れたのが見えて、後ろに控えていたレイノルドは思わず駆け出した。


「……じゃ、私が取り上げてあげる」


感情の抜き取られた声。

少女は多分、ずっと以前に殺されていたのだ。

違反によって。

違反を許す社会によって。


『守ってくれれば、人など撃たずに、平凡に生きられたのに』


違反はなくならない。

感情を押し殺し、引き金を引き続ける。

人でいられなくなった少女は、無表情に銃を抜くに至った。


「さようなら」