ダイダロスの翼

農道の脇では小川が流れているらしい。

まるで滝のように幾重にも重なる水音と、蛙の声が、じっとりとした初夏の風とともに2人のもとへ届いた。


「話って何」


手短にと言わんばかりに、そっけない声がする。


「何、というわけでもないが。

俺はお前を知りたかった。

だから話をしに来たのさ」


すると少女は、けげんそうにレイノルドの目をのぞき込んできた。


「私を知りたいの?

変わった人ね。

私はただの規則の守護者よ」


「そこだ。

お前はなぜ規則にこだわる?

実験台にされている住民をかわいそうだとは思わないのか」


レイノルドもまた、少女の真っ黒な瞳をのぞき込む。

目にぶつかる視線が熱い。


少女はすぐに、混じり気のない瞳そのままの、迷いのない答えをレイノルドに与えた。


「決まりが守られないせいで、迷惑する人がいるからよ。

最近は銃犯罪による被害が増加しているわ」


少女の声に気圧されたように、満ちていた蛙の声が遠のいた。


「銃の、……被害?」


唾を飲み込んでから、改めて問う。


「そうよ。

あなた達は銃で住民を救うつもりだそうだけれど、

……その銃で撃たれているのは住民よ」


なかば哀れむような目で、瑞緒はレイノルドを見つめる。


とたんに頭の奥底から、ぎり、と痛みが走った。

副作用の頭痛。
原因は不安、だったか。


その痛みから逃れようと、レイノルドは頭を振る。


「……お前、聞いてたのか?

俺とトールの会話を」


気を紛らわせるためにレイノルドが尋ねると、少女はそっけなく答えた。


「取引場所付近の音声記録を洗っただけよ。

たいした手間じゃないわ、私も電極手術を受けた身だから」