ダイダロスの翼

短絡的、とマリーナはつぶやいた。

トールは静かにうなずく。
少し、同情の混じった目だった。


「あいつの電脳は、ダウンロードした技術を再現するタイプのものだ。

だが、技術の受け売りでは、実戦で使い物にならない」


正拳突きの型を再現できても、敵の反応を見極める力がなければ、攻撃は空振りしてしまう。


「あいつはおそらく、ダウンロードした技術の『活用』に思考のほとんどを割いている。

だから……普段の思考が、ことごとく単純になっているんだ」


人間が処理できる量には限りがある。

レイノルドは、電脳化によって様々な技術を手に入れた代わりに、

普段の思考力を削り取られてしまったのだ。


「……それで、あんなに子供っぽくなっているのね」


肩をすくめるマリーナのさらさらとした黒髪を眺めながら、トールは手術前のレイノルドを思い出していた。


暗記のいる学校の成績はともかく、

サッカー、チェスなど「人」相手のものはレイノルドが明らかに上だった。


それが分かっていたから、トールはレイノルドに勝負を挑んだことがない。


「あいつはすごい奴だったよ。

だから俺は残念なんだ」


それは本音か建前か。

虫の声が、妙に耳についた。