ダイダロスの翼

「ちょっと、トール!

取引の時、レイノルドと一緒にいたんでしょ。

どうして町に入るのを止めなかったのよ」


また新たに石を握り締めながら、マリーナはトールを責める。

トールは少しだけ渋い顔をして、深々とため息をつくとつぶやいた。


「止めたさ。一応な」

「一応って」


「入ったら監視者とぶつかるのは目に見えている。

戦闘になって、ケガの1つもするかもしれない。

だったら俺が止めなくても、あいつが勝手に反省するだろうと思ったんだ」


「反省どころか得意顔だったわよ」


言い訳がましくつぶやくトールに、マリーナは呆れたように息を吐いた。


「私、彼に期待してたのに。

ダイダロスの鳩派双璧であるトールよりも、凄腕だって聞いてたんだから。

でも何よ。
中身はまるで子供じゃない」


つまらなさそうに石を放る。

その軌跡をながめて、トールはちらりとマリーナへ視線を移した。

そうして、おもむろに尋ねる。


「なあ、マリーナ。

あいつ、いくつに見える」


唐突な問いかけに眉を上げたマリーナは、ほっそりとした白い人差し指を額へあてた。

が、すぐに答える。


「見た目は、28歳かしら。

トールとあまり変わらないわよね」


トールはうなずく。


「当たりだ。
あいつはあれでも28歳。

少し前まで、年相応の……いや、年齢以上の思考力を持った奴だった」


「前まで?」


けげんそうに尋ねる声が、少し揺れる。


「あいつは変わったよ。

電脳化手術をしてから……なんと言うか、至極短絡的になった」