ダイダロスの翼

強固だが脆い。

少女に対して相反する2つの印象を抱いたレイノルドへ、少女は面倒臭そうに口を開いた。


「放してくれない?」

「あ、ああ」


レイノルドが気怠げな声に従うと、少女は何事もなかったかのように、地面へ落ちた拳銃を拾い上げてホルスターへ収める。


撃たれるかと一瞬身構えたレイノルドは、拍子抜けしてしまった。


「なんだ、俺を撃たないのか」


レイノルドが単刀直入に尋ねると、少女は小首を傾げて一言。


「だってあなた、もう武器を持っていないでしょう」


レイノルドはまじまじと長身の少女を見つめる。

武器所持を取り締まる、『監視者』。

役職や業務に関する情報はあったが、実際に会うのは初めてだった。


「……お前、名前は?」


レイノルドが問うと、少女は平坦な声で短く答える。

無駄なことは話さない質らしい。

「私は高井瑞緒」


レイノルドはうなずいて、少女にならい名乗りを上げることにした。


「俺はレイノルド・アノー。

……また、会えるか?」


『違反を取り締まる者』という知識だけでは量れないものが、彼女にはある。

また会いたい。
レイノルドはそう思った。


だが少女は目をすがめると、あっさり言い放った。


「私は会いたくないわ。

次に会う時は、多分あなたが銃を持った時だもの」


「じゃあ、きっと会えるな」


屈託なく笑うレイノルドをねめつけてから、少女は町の奥へと立ち去っていった。