トールなら間違ったことはしない。


レイノルドはそう結論づけて、それから数日間、フェンスの向こう側にいる住民へ銃を売り続けた。


銃はそれこそ飛ぶように売れた。

皆、嬉々として銃を手に取り、礼を言っては町の奥へ去る。


「どうだ、レイノルド。

住民は武器を欲しているんだ。
だから俺達が与えてやればいい」


トールは満面の笑みを浮かべて分厚い胸を張る。


「銃は、町から脱出するための羽根なんだ。

俺達が翼の材料をそろえてやれば、あとは住民が行動してくれる」


「翼……?」


トールが誇らしげに口にした比喩がなんとなく気になって、レイノルドは聞き返す。

トールは呆れたように肩をすくめて、ため息をついた。


「お前、ダイダロスの団体名の由来くらい知っているだろう。

『ダイダロス』は、ギリシャ神話に出てくる男の名さ。

彼は、怪物のいる迷宮に閉じ込められた時、自作の翼で息子のイカロスと共に飛んで脱出したんだ。

迷宮から脱出するための翼。

島から脱出するための銃。

……住民の解放をめざす俺達にはふさわしい比喩だと思ったんだが、伝わらなかったか」


残念そうに首を振るトールに、レイノルドは鼻を鳴らして応える。


「悪かったな、学がなくて。

でももういい、今ギリシャ神話を脳内へダウンロードしたから。

トールが細部を忘れたら教えてやるよ」


それはないな、と笑うトールに、レイノルドもそうだなと笑う。

2人とも、銃の密輸に手応えを感じていた。

住民が解放される日も近いと、そんな機嫌のよさを打ち壊すように、



1発の銃声が響いた。