ザザン、と波の音が何度も聞こえる。ディオンは砂浜に立っていた。
「いつの間にか外にいるから、驚いたわ」
振り返れば、アンネッテがそこにいた。
「頬の傷、治してあげるわね」
水獣によってつけられた傷口に、そっと手を近付ける。
淡いオレンジの光が、その傷を覆う。見る見るうちに傷口は塞がっていった。
「…ありがとう」
小さな声だったが、アンネッテには確かに聞こえていた。
どういたしまして、と微笑む。
「ネレイド、良かったわね」
ああ、と答える。穏やかな風が、頬を撫でた。
「お前、妖精には思いやりがあるんだな」
言いながら、フェイが隣へやって来た。
「妖精のことは好きだから」
妖精は好きなのか。
ああ、でも、ゆっくりと人間のことも好きになってくれれば、それでいい。
『人間なんて消えてしまえばいいのさ』
きっと、ディオンのその考えは変わる。
なぜか、フェイはそう思えた。
「ねえ、ディオン。ネレイドの満面の笑みを見て、心が温まると感じた?」
「…分からない」
心が温まる、という感覚がどういうものなのか、僕には分からないのだから。
ああ、けれど――。


