「ネレイド、彼らの前に姿を見せるんだ」
ネレイドだけでなくフェイやアンネッテもまた、驚いた。
( けれど…… )
早くしろ、と彼女の言葉を遮る。
うろたえながらも、しぶしぶディオンに従った。
夫婦の目に、うっすらと何かが見えてくる。
「海の女神様……」
夫君が呟いた頃には、はっきりとその美しい姿が見えていた。
「赤ん坊を連れ去ったのはこの妖精だ」
ネレイドは俯く。
「窓が開いていたのも、歌声が聞こえてきたのも、あれは全て女神様だったのか……」
夫君が言った。
「決して、悪気があったわけじゃないんだ。その赤ん坊がとても愛らしく、つい攫(さら)ってしまった。彼女は深く反省している。だから……」
どうか許してやってくれ、と続けて言った。
ネレイドは顔を上げるのが怖いのか、俯いたままだ。
彼女の肩は、僅かに震えていた。
「女神様、顔を上げて下さい。私たちは、何も怒っていません。あなた様は、坊やを返してくれました。それに、反省して下さっているのなら、私たちが怒ることなど、何もありません」
夫人の優しい声に、彼女の瞳から涙が零れ落ちる。


