世界の終わりに、君は笑う




「どうした?」

「いや、別に。それより、赤ん坊を」

一瞬にして、真剣な眼差しへと変わった。ディオンはネレイドへ一歩近付く。

「ネレイド、お前にその赤ん坊は育てられない。それはお前自身が、一番分かっていることだろう?」

ゆっくりと、彼女は顔を上げた。

( けれど、私はこの子の傍にいたい )

透き通るような声が耳に入る。
妖精の言葉を、普通の人間は理解出来ない。
しかしムーンストーンに込められたディオンの力のおかげか、フェイはネレイドの言っていることが理解出来ている。

( 人の子を見たのは、初めてだったの )

ぽつりと、彼女は話しはじめた。

人の子は小さくて、けれどとても、温かかった。
柔らかいその頬に触れれば、その子は泣きはじめて、慌ててその場から逃げた。

それからは、何度も窓からその子の様子を見ていたわ。
笑顔がとても、愛らしかった。

だから、我慢できずに忍び込んだときもあった。
その子の前では姿を見せて、子守唄を歌ったりもした。
小さなその手で指を握り締められたとき、その温もりが嬉しくて、愛しくて、泣いてしまったわ。


ずっと、ずっとこの温もりを感じていたい。

その思いは増すばかりで、駄目だと分かっていても、その衝動には勝てなかった。