世界の終わりに、君は笑う




「海から陸へと姿を現すのは、たいていアザラシ妖精(セルキー)か海の女神(ネレイド)だ。どちらかが赤ん坊を攫(さら)ったと仮定してみろ。海の妖精はあまり海から離れた所に行こうとはしない」

あ…、とフェイは呟く。
二人は街中にいる妖精ばかりに訊き回っていた。
しかし赤ん坊を奪い去った海の妖精は、街中へは行かない。

つまり小人妖精(コボルト)や妖精猫(ケット・シー)がその妖精の姿を見ることはなく、またどこにいるのかも知るわけがないのだ。

「人魚(メロー)は誰かの出来事を歌にするのが好きなんだ。海の妖精が取り替え子をしたと知れば、彼女たちは必ずそれを歌うに違いない。だから、僕はその歌を聴こうと思った」

しかしメローが昼間に海面に姿を現すことは滅多にない。
彼女たちが姿を現すのは、人間が寝静まった真夜中なんだ、とディオンは続けた。

「どうして俺たちに何も言わず、一人で出て行ったんだよ」

「一人で行った方が、楽だから」

口先ではそう言ったが、実際のところ、先ほどのように〝手伝う気になったのか〟と言われるのが嫌だったから。
人間は消えてしまってもいい、という思いがなくなったわけじゃない。