ロビーに戻り、フェイとアンネッテは腰掛ける。
円卓を挟み、未だ泣き続ける女を抱き寄せるようにして、男が座っている。
宿を経営しながら、夫婦もまた此処に住んでいた。一年前に念願の子どもが生まれ、大喜びしたという。
しかし、子どもが生まれたと同時に、奇妙なことが起こりはじめた。
「奇妙なこと?」
アンネッテは首を傾げる。
「ええ。……坊やが部屋で眠っている間、私はロビーで主人の手伝いをしていました。しばらくして、部屋から泣き声が聞こえてきたのです」
震えた声で、彼女は話し続ける。
「部屋へ入ると、閉めていたはずの窓が開いていたのです。坊やには何も怪我などはありませんでしたが……それからというもの、そういうことが何度も起こって……」
「誰かが部屋に入り窓から出ていった、という可能性は?」
アンネッテの問いに、夫人は首を横に振る。
「ご覧になれば分かるように、私たちの部屋へと続く扉は受付から見渡しの良い所にあります。誰かが入ろうとすれば、必ず目に入ります」
それに……、と続ける。
「妖精の声を聞きましたの」
「声を?」
フェイが身を乗り出す。
「ええ、あれは綺麗な歌声でした。部屋へ入るときに、聞こえてきたのです」


