「くそ! 動け、動け…!」
体を動かそうと力を込めれば込めるほど、余計に抑えつけられ、苦しくなる。
「…鬱陶(うっとう)しい魔法だな」
低い、声が聞こえた。
刹那――魔力でも精霊の力でもない、あの恐ろしい力を……人工精霊の力を、ぴりぴりと肌で感じる。
「あれは!」
アンネッテが叫ぶ。
残ったレクスの者たちを囲むように黒い霧が集まり、次第にそれは狼の姿となる。
現れた四匹の狼は、セリシアのとき同様、サファイアブルーとスカーレットのオッドアイだ。
ただ一つ違うのは、オッドアイが左右逆だということ。
レクスの者たちは、体を震わせた。
二匹の狼が、フェイたちの動きを抑えている三人の研究員に喰らいつく。
魔法がきれ、フェイたちは力が抜けたように、膝から崩れ落ちた。
呆然と、狼の姿を見つめる。
他の者に襲いかかった二匹の狼は、その者の喉笛を噛み千切り、咆哮(ほうこう)する。
尻尾が伸び、心臓へと突き刺した。すると、狼の体に蒼白い光が纏(まと)いはじめる。
「何が起こっているんだ……」
フェイは呟いて、立ち上がる。
「あの人間の持っている魔力が、狼の体へと流れ込んでいくのを感じるわ……」
声を震わせながら、アンネッテが言った。
「今すぐ逃げるんだ! 十年前の資料が正しければ、あの狼は人間の魂を喰らう!」
一人が叫ぶやいなや、生き残っている者たちは出口目掛けて走り出す。
「逃がしちゃいけないよ」
ディオンの声が、フェイの耳に入った。


