唇が、触れ合う直前……。
長いまつ毛が、ピクリと揺れた。
だが俺は、それに気づかなかった。
ほとんど、目を閉じていたから……。
「い、やぁ……っ!!」
「!」
小さな悲鳴で、我に返る。
反射的に身体を起こすと、渚が目覚めている事にやっと気づいた。
彼女は上体を起こし、布団を引き寄せてふるふると震えた。
「ごめん……」
それしか言えなくて、彼女を抱きしめようと手をのばす。
「やだ……っ」
だけど渚は、起きたての身体で、それを全力で拒否した。
両手をつっぱり、俺の腕を回させまいとする。
「渚、聞いてくれ」
力を抜いた腕から、渚の手が離れていく。
そこにはくっきりと、彼女の爪あとが残った。
「あのな、渚」
「もうやだよぉ……っ。聞きたくない……」
「渚、頼む。聞いてくれ」
「やだ……!
コウくんも、おばあ様も、雅も健ちゃんも、皆知ってたんでしょ。
皆、私の龍神剣が欲しかったから、優しくしてくれたんでしょう?
皆、私を、人間に騙されたバカな神だって、思ってたんでしょう!?」
渚は、既に泣いていた。
俺は、もう我慢ができなくて。
無理やりに、渚を引き寄せ、腕の中に捕獲した。



