右手に剣を、左手に君を



「話?」



玉藻の声の波長が変わらないか気をつけながら、たずねる。



玉藻は濡れたまま、縁側に近づいて話しだした。



「善女竜王。

人間の仲間なんかやめて、私達の仲間におなりなさいな」


「……えっ……?」



あまりに意外な発言に、一瞬警戒が切れてしまう。


玉藻は笑ったまま、話を続けた。



「あなたは知らないのね。

この国が、人間によってどれだけ蝕まれたかを……」


「文明が進んだ事を言ってるの?」


「……本当にのんきなお姫様ね。

それとも人の子の姿だからかしら?

大地の悲鳴が聞こえないの?」



皮肉に満ちた玉藻の顔を見て、ハッとする。


慌てて、周囲に意識を払う。


そして、ある事に気づいた。



「……精霊が、ほとんどいない……」


「そうでしょう。

まだこのあたりは良い方。

昔は八百万(ヤオヨロズ)の神様なんて言って、モノには全て、魂があると信じられていたのにね。

人間達は、いつしかそれを忘れてしまった……」



玉藻の言う通りだ。


昔は土にも草木にも精霊がいて、人間達と共存していたのに。


今は、森からも、地 からも、雨からも、植物からも、精霊の声が聞こえない。


この前アジサイと話をした時も、アジサイの声はしたけど、精霊はいなかった。



「精霊達は……どこへ?」


「ほとんど、消滅してしまった」



「消滅……!?」



苦々しい顔で、玉藻はうなずいた。


何かを憂いでいるような瞳で。