右手に剣を、左手に君を



「お前の相手は、俺だ」


雅の声が、体育館に響いた。


玉藻は金色の目で、一瞬だけそちらをにらんだが……。



「いいわよ。私もどうせ血を見るなら、よりイケメンの血の方が良い」



と、口を横に裂き、にやりと笑った。


妖が『イケメン』とか言うと、激しく違和感を感じるのは俺だけだろうか……。


って、そんな事を気にしている暇はない。



「雅!そいつの声は聞くな!」

《遅いわよ!!》



思わず耳を塞いだ。


聞く者の精神を侵す声が、鼓膜を痛いほど震わせる。


見ると、雅も耳を塞いでいた。


玉藻はその邪悪な声を続けて放つ。



《柏原雅。貴方だって、相当の使い手よね?

一度、人間の子では誰が一番強いか、証明してみない?》


「だまれ……っ」


《貴方が一番だって、見せてよ》


「雅、聞くな!!」


《御津恒一を……殺しなさい》



殺しなさい。殺しなさい。殺しなさい。


その声は、まるで無限に続くかのように脳に直接信号を送る。



「やめ、ろ……っ!」


雅は、必死に抵抗する。


その綺麗な顔が、苦痛に歪んだ。


なおも玉藻の声は響き続ける。



《その剣で、御津恒一を斬り殺せ!!》


「!?」



雅の手が、十束剣を構えた。


切っ先を、俺に向けて……。