右手に剣を、左手に君を



ぶわ、と邪悪な妖気が顔を叩く。


まるで、何者も寄せ付けないように。


しかし俺達は、勇気をふりしぼって、その中へ踏み込んだ。


その中は、いつもの体育館となんら変わったところはなかった。


ただ、その妖がいるということ以外は……。



「……誰?私の結界を破ったのは……」



体育館の中央にいたのは。


尖った耳と九本の尾を持つ……。


妖狐、玉藻だった。



「玉藻……健太郎に何をした」



健太郎は、玉藻の足下に横たわっていた。


気を失っているように見える。



「眠らせただけよ。

今からゆっくり魂をいただこうと思ったのに」



玉藻はうんざりした表情で言った。



「米倉……女子生徒はどうした?」


「さぁ?知らないわ」



ひとまず安心する。


米倉は先に帰ったのか……。



「俺達を狙ってきたのか?」


「そうよ。

神剣もろとも、叩きつぶしておけとの命令だから」



何という事もないように、玉藻が言う。



「迦楼羅はどうした」



雅がたずねる。


すると、玉藻は金色の瞳を細くして、俺達の後ろをあごで指した。



「呼んだか」



ぞくり、と背中が震える。


おそるおそる振り返ると。


いつの間に現れたのか。


俺達の背後。


舞台の上に、迦楼羅が立っていた。