ぶわ、と邪悪な妖気が顔を叩く。
まるで、何者も寄せ付けないように。
しかし俺達は、勇気をふりしぼって、その中へ踏み込んだ。
その中は、いつもの体育館となんら変わったところはなかった。
ただ、その妖がいるということ以外は……。
「……誰?私の結界を破ったのは……」
体育館の中央にいたのは。
尖った耳と九本の尾を持つ……。
妖狐、玉藻だった。
「玉藻……健太郎に何をした」
健太郎は、玉藻の足下に横たわっていた。
気を失っているように見える。
「眠らせただけよ。
今からゆっくり魂をいただこうと思ったのに」
玉藻はうんざりした表情で言った。
「米倉……女子生徒はどうした?」
「さぁ?知らないわ」
ひとまず安心する。
米倉は先に帰ったのか……。
「俺達を狙ってきたのか?」
「そうよ。
神剣もろとも、叩きつぶしておけとの命令だから」
何という事もないように、玉藻が言う。
「迦楼羅はどうした」
雅がたずねる。
すると、玉藻は金色の瞳を細くして、俺達の後ろをあごで指した。
「呼んだか」
ぞくり、と背中が震える。
おそるおそる振り返ると。
いつの間に現れたのか。
俺達の背後。
舞台の上に、迦楼羅が立っていた。



