右手に剣を、左手に君を



そうだった。健太郎を見つけなければ。



「……この中だよ、健ちゃん。

妖もいる。

私がこの結界を壊すから、二人は戦う準備をして」



え?ちょっと待て。


渚は勝手に、どんどん決めてしまう。



「これを壊したら、新しい結界をはるから大丈夫。

外からは見えないようにするから」


「ちょ、ちょっと……」


「健ちゃんを助けなきゃ!」



それはそうだが、お前そんな事できるのか?


俺達が呆気に取られていると、渚が体育館の戸に手を伸ばす。


触れた途端、バチ、と妖気が彼女の手に衝撃を与えた。



「大丈夫か」



渚は黙ってうなずき、まぶたを閉じる。


息を吸い、桜色の唇から清浄な霊気を吐き出した。



「……中和されていく……」



雅が体育館全体を見上げる。


俺も感覚を澄ませる。


と、建物全体をくるんでいる妖気のラップが、見えた。


どす黒い色だったそれは、渚の手のひらから、澄んだ海の色に変わっていく。



「……溶けて」



渚がつぶやくと、色の変わった結界が。


どろん、と溶けて、空中に消えていくのが見えた。