忍はおもむろに目を開ける。
「ぼくが四季に会わないと、この声は世界を破壊しつづける。──見て」
すっと右手を前へ翳すと、その指し示した方に人が疼くまっていた。
由貴はそれを見て──信じられないというように、首を小さく振った。
「イレーネ…?あり得ない」
由貴の目の前に、自分の書いた小説の中の登場人物であるはずの『イレーネ・スフィルウィング』が、片膝をつき座り込んでいた。
イレーネはその声を感受して、気分が悪くなっているように見えた。
銀髪に白い細面をわずかにあげ…由貴と視線が合ったように思えた。
と──。
「イレーネ!」
由貴から派生するように金髪の少年がイレーネの方へ歩いてゆき、イレーネを軽く抱き寄せた。
ユニスだ。
「……」
イレーネは苦しげに言った。
「ユニス…は平気?」
「つらそうなのはあなたの方でしょう。私は何ともありません」
ユニスは安心させるように言った。
「そう。声は聞こえない?」
「声?」
「『たすけて』って」
「いいえ。私には。どんな声ですか?」
「たくさん…。響いてる」
「──やめて」
凍りついたようにそれを見ていた由貴は、やがて忍に頼み込むようにそう口にする。
忍が、由貴の目を真っ直ぐに見る。
すると──捩れたと思われた世界は、元の世界──由貴の部屋へと戻っていた。

