その時、部屋の空気に異変が生じた。
「──くっそ…、お前速すぎ!どんだけだよ!揺葉忍!」
そう叫び、また、ひとりの男が由貴の部屋を訪れた。
忍は冷めた目で男を見る。
「何しに来たの。ついて来てなんて頼んでない」
「お前な…。お前みたいなのが普通にうろついていたら、こっちの世界の人間が驚くだろうが。──ああ、失礼」
男は由貴と涼の方に向き直り、一礼した。
「俺の名はフェロウ。こっちの世界の人間ではない」
「シェネアムーンの世界の人?」
涼の小さな疑問にフェロウは笑みを返した。
「そう。──ああ、シェネアムーンに会ったのか。あいつも仕事が早いな」
忍は息を切らせているフェロウからすっと目を背けると、宙の一点を見つめる。
何処を見ているのかわからないようなその凝視に、由貴は「何か見えるの?」と訊いた。
忍は考えて答える。
「ぼくが四季に会いたい理由」
「理由?」
「見たい?」
ふっと忍が意識を大気に委ねるように、目を閉じた。
世界が捩れる。
忍を中心に、取り囲む世界が変形してゆき、そこは部屋ではなくなった。
大水の轟のごとき唸り声が地響きのように駆け巡った。
(たすけてけてけてけて──)
狂気の風が吹き荒れた。

