精霊のうたう歌がここから彼方へ、彼方からここへ、とよめき渡る。
音は何処から来て何処へゆくのか。心は何処から来て何処へゆくのか。
音と心は似てる。
──涼に小説を読んでもらっている間、由貴は物語の続きを考えていた。
「──会長、読んだ」
読むのが早い。
ノートを閉じた涼の表情は、たった今別の世界から戻ってきたような表情をしていた。
「会長は世界を律するものは『歌』だと思うの?」
「うん。何となくなんだけど。旋律って不思議な存在じゃない?生物学上、どうしても必要とされる根拠は何処にもないのに、聴いた時に心地良く感じたり、食べ物でもないのに満たしてくれるものだったりする。声を揃えるとひとつになったりする。自然界の風の音が何処からともなく起こってきて消えて行くものだとしたら、人の起こす音は人のところから起こって、人へと連鎖する。音そのものは何処へ消えて行くものなのかわからなくても、音と心が反応すれば意味があるものになる。意味がなければ反応なんかしないよ。そしてそれは虚無にはありえない」
涼は由貴の言っていることを考えて『意味』の『意』という字は『音』と『心』なのだと感じた。

