涼は棚の上に立てかけているスケッチブックを見て顔をほころばせる。
「今日、黒木くんと四季くんとお話していた絵?四季くんの絵、素敵」
由貴は「うん」と柔らかい表情になる。
「こういういい絵を見てると感性刺激される。いい音楽に出会った時みたいに。四季には四季のイメージした世界が広がっているはずで、この絵を見ているとそのイメージの広がりが伝わってくる。感動って閃きをもたらす原動力のようなものだと思う」
涼は、四季の話をしている時の由貴が好きだ。
たぶん由貴が四季のことを大事に思っているからだろう。その気持ちが伝わって来て、あたたかい気分になれる。
「会長の書いている小説って、どんなお話?」
「え?」
「会長がどんなお話書くのか、涼も読んでみたい」
──そういえば、涼はどんな本を読むのだろう。
由貴はふっとそんなことを考えて、言った。
「ファンタジーなんだけど、いい?涼がどんな話が好きなのか、わからないんだけど」
「ファンタジーでも何でも、涼は会長に興味があるからいいの」
「…そう」
そう言われて、由貴は少し気恥ずかしい心持ちになる。
涼が自分のことを好きだと言ってくれていることは自覚しているが、あらためて、こんなふうに好きだと言われると照れてしまう。
由貴は涼に小説を書いたノートを読んでもらおうと、机の上を見た。
ノートにのばした手が止まる。
消しゴム。開いたノートの真ん中に放置され、消しカスが散らばっていた。
いちばん新しく書いたページがななめにざっと消しゴムで消された跡。
(何…?)
先刻まで感じていた得体の知れない不安に包まれる。
涼…じゃない。
涼は部屋に来てからまだ机の付近までは近づいていない。
さっきノートの隅から隅まで見た時は確かに全文書かれていたから、もし消されたとしたら、エピソードを書きとめて置くノートを見ていた、かなりわずかな時間で、ということになる。
(そんなことって──)
「会長、どうしたの?」
「…小説、消されてる」
「え?」
由貴は呆然とノートを見る。涼も由貴の傍らまで来て、ノートの有り様を見て、由貴の言っていることを理解する。
「会長…。誰かがここへ来て、会長の書いたお話、消したの?」
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