白き薬師とエレーナの剣

 先にイヴァンとルカが中へ入っていくのを見てから、トトがいずみに目配せして「じゃあ行こうか」と促す。
 いずみは返事代わりに頷いてみせると、トトと並んで歩き出した。

 大きな窓がいくつも並んだ部屋は、外の光をふんだんに取り入れ、明るく清々しい空気に満ちていた。
 窓の向こうには手入れの行き届いた庭が広がり、ここから自由に行き来できるようになっていた。

 トトが「あちらにいらっしゃるよ」と、左側を恭しく手で指し示す。
 いずみが顔を向けると、そこには大きなベッドで上体を起こし、くつろぐ女性の姿があった。

 長い髪を上で束ねた彼女は、少し頬がやつれているものの背筋はしゃんと伸び、その青く深みのある瞳からは生気が感じられた。

「母上、お加減はいかかですか?」

 イヴァンがベッドの横に来て話しかけると、王妃は目に弧を描いてイヴァンを見上げた。

「ふふ……今日はいつになく気分が良いわ。だって、ずっとお礼を言いたかった人に会えるのですもの」

 そう言って王妃はゆっくりと顔を前に向け直し、いずみに視線を定めた。

「いつも花束を作ってくれていたのは貴女かしら?」

 穏やかに微笑むその顔は、気品がありながらも親しみを感じさせてくれる。
 顔を合わせる度に息苦しく感じてしまうジェラルドとは真逆にいる人だった。

 少し肩の力が抜けて、いずみは笑みを浮かべながら「はい」と頷く。
 王妃はよりにこやかな顔になると、小さく手招きをした。

「もっと近くに来て、そこの椅子にお座りなさい。貴女の顔をよく見せて欲しいわ」

 チラリと王妃が目配せすると、イヴァンは何も言わずに一歩下がる。そしていずみと目を合わせると短く頷いた。

 求められるままにいずみは王妃の枕元に置かれた椅子まで行くと、「失礼します」と腰を下ろす。
 遠目から見た王妃は若々しい印象だったが、間近になると目や口元の小ジワが分かり、美しい年の積み重ねが見受けられた。

 王妃がわずかに体をこちらに向け、いずみの顔をジッと見つめた。

「今まで私のために花束を作ってくれて本当に感謝しているわ。貴女の花束にどれだけ心を慰められたことか……」

 言いながら王妃は睫毛を伏せ、掛け布団の下にある己の足に視線を落とす。

 トトの話では、十三年ほど前に馬上から落ちて骨折した際、その治療がうまくいかず骨が変形し、歩くことが困難になってしまったらしい。
 いくら『久遠の花』でも、既に変わってしまった骨の形を元に戻すことはできない。自分のせいではないと分かっていても、いずみの胸は締め付けられた。

 静かに瞼を閉じてひと息つくと、王妃は顔を上げて再び笑顔を見せた。