白き薬師とエレーナの剣

 いずみが文字を書き上げて顔を上げると、イヴァンが目を見張っていた。
 それから微笑を浮かべ、こちらの頭をくしゃりと撫でた。伝わってくる手の重みが、「良かったな」と言ってくれているような気がする。

 スッと手を離すと同時に、イヴァンは再び椅子へ深く腰かけた。

「どんな内容でも構わないから、もう少し隠れ里の思い出を教えてもらえるか? 俺は滅多にバルディグを離れることはできんから、国外の話を聞き知る機会は貴重なんだ。それが貴族ではない民の話なら尚更な」

 イヴァンの口は真面目な言葉を紡いでいるが、目は期待と好奇心が溢れている。
 話の流れを考えれば、どんな妹なのかを知りたいのだろう。

 心置きなくみなものことを語ってもいい――そう思った途端、胸の奥へ大切に仕舞っていた思い出が溢れ出す。

「はい、分かりました! ……思い返すと、学ぶ時でも、遊ぶ時でも、寝る時でも、常に妹と一緒にいました。里の男の子たちよりも元気があって、負けん気が強くて、いつも『いずみ姉さんを守るんだ』って――」

 言葉にすればするほど隠れ里の思い出が鮮明になり、輝き始める。

 もう戻れない日常……ここへ来た当初は、思い出すほどに苦しくなり、胸の中が絶望で暗くなっていた。
 けれど今は、この現状から抜け出せるかもしれないという希望と重なり、戻れない日々を愛おしく思う。

 思い出しても苦しくはない。むしろ心の奥に明かりが灯る。

 一度口にし始めると、言いたいことが次から次へと出てしまう。
 そんないずみへイヴァンは温かな眼差しを送りながら、長くなっていく話を嬉しそうに聞いていた。