――――――…








「結局夜になっちゃったねー」

「あーあ、俺は本当なら
こんなわざわざ出てくること
なかったのによー。
俺畑仕事サボったの
何年ぶりだろう。
母ちゃんに怒られるな」

「………ごめん」











ああ、そうだった。



今日は本当なら殿と…。











「っだ~!
うそだし今の!
畑仕事なんか
いっつもサボってるし!」

「………あ、ごめん、
なんか言った?」

「!!

……悪かったな。
殿様じゃなくて」

「え…」

「俺はそんな高価な
浴衣とか買えねーけど」













そう言ってモスケが
おずおずと取り出したのは
いつかの赤いかんざしだった。












「これ…」

「やる」

「やる、って…」

「いいから」

「……ぷっ!
かんざしならお祭りの前に
渡してくれなきゃ
意味ないじゃん。

でも、ありがとね。
かんざしもだけど…
今日1日。
本当ありがとう」

「……おう。

やっと笑ったな」













そう言ったモスケの
いつもより大人っぽい
笑顔にドキッとしながらも、








やっぱり殿のあの
寂しそうな表情が
頭を離れることはなかった。