【完】サクラのうた ‐桜庭 大雅‐



「放っとくワケねぇよな、大雅?」


龍輝が笑いながら言う。

…けど俺はその場から動かず、ただただ二人を見送った。




「なんだよ、行かねーの?」

「…うん」


「お前、あの子が好きなんじゃねーの?」


…好き?
俺は、あの子が好き?


…いや…、


「…俺が好きなのは真由ちゃんだよ」

「でもあの子のこと気になるんだろ? ならあの子のことが好きなんじゃん」

「…同時に二人を好きになるなんて無いだろ普通」


「そうかな? 俺はそういうのアリだと思うけど?」


…ふわり、柔らかな風が龍輝の髪を揺らす。




「人の数だけ想いがある。
なら“そういう形”があってもいいんじゃねーの。
人を好きになるのは自由、好きになった後にどうするかは本人次第。
お前はお前らしく行動すりゃいいじゃん」

「………」


「あぁもちろん、付き合う前の話な?
付き合い出した後にそんなこと言ったらぶん殴る」


あははっ、と笑って髪の毛をかきあげて、そして歩き出す。




「悩んでるお前は、らしくねーよ」


ひらひら、と手を振って、龍輝はそのまま教室を出ていった。




「…俺らしくない、か…」


…龍輝。


俺だって、“俺らしく”ありたいよ。




「…俺らしく居られたらこんなに苦しくねーよ、馬鹿」