「潔い貴方の決断に敬意を表し、
今だけは攻めるべき相手を、貴方だけにして差し上げますわ。
今だけは――」
時間が経てば車を追跡するのも吝(やぶさ)かではないと、そんな含んだ笑いを見せる雅。
「見くびられているようだけれど…
僕は"負けて"あげるなんて言ってないからね?」
僕は、青い力を解放した。
「僕に敗れた君が、その屈辱に矜持を捨ててまでも、その力を増強したというのなら――」
力は――
青色から白色に変わる。
「僕の力も強めればいいだけだろう?」
波動状に力が拡大し、火花が散った。
白い電撃(スパーク)。
同時に放たれた鉄環手が…その輪郭が溶け出した。
「くっ!!! オリジナルは・・・流石です」
12の鉄環手が弧を描き、制裁者(アリス)がそれに守られて突っ込んでくる。
何度も繰り返される合体技でも、僕の白い光は、敵が僕に行き着く前に溶かす。
悲鳴。
絶叫。
何度来ても同じだ。
人体であろうが、鉄であろうが。
無力化してやる。
生きるという希望を捨てれば、
それを力の糧にさえすれば、
僕の力はどこまでも強まる。
さあ…。
思う存分、力を使え。
芹霞がくれた月長石。
最後の最後に――
華々しく…
僕の愛を散らしてくれ。
僕の力に触れた制裁者(アリス)が消えていく。
次々と溶けていく。
高揚。
だけど…
ああ――。
体が…その力を放出し続けることに悲鳴を上げている。
壊れると警告を発している。
乱れる僕の心臓。
シンゾウガモタナイ。
発作の予感。
それでも、"男"なら…
愛の為にしないといけないことがある。
この身を打ち捨ててでも、死守しないといけないことがある。
かつて櫂が、自然の理に逆らってでも、芹霞を生かしたように。
芹霞を守る騎士は、櫂じゃない。
例えそれが自己満足であったとしても。
僕の矜持に賭けて、その役目は僕のものだ。
今、この時だけは!!!
僕は左胸を手で掴み、まだいけると励まし騙しながら、更に力を増大させた。

