思い出さないほうがいい。

絶対、その内容を思い出さないほうが。


何を見たかは曖昧だけれど、凄い夢だったことだけは思い出した。


ありえない程、凄かった気がする。

だけど何が凄かったのかは思い出せない。


無理にでも思い出したらきっと…

あたしは大量失血死してしまいそうだ。


多分、そんな夢。


何で、何で!!?

何でそんな夢を見てたんだ…って、どんな夢かは判らないけれど。


判らないけどなんとなく――。


玲くんがあたしの名前を呼んで、玲くんが…。


ああ、玲くんが…。


「うわっ、芹霞。今回はまた随分と出るね!!?」


何であたしから鼻血が吹き出るんだ!!?

というか、今…頭に何が浮かんだ!!?


「何、どうしたの、突然真っ赤になって!! ああ、そんなにしたら、ほらまた鼻血が!!! 芹霞、興奮しない!! というか、僕何もしてないからね!!?」


知らない。

見てない。

判らない。


そんなことより、いつの間にあたしは寝てたんだ!!?


「ああ、また君の服にケッコンがついちゃった。着替えないとね」


"ケッコン"


どくん。


玲くんの結婚話を思い出した。


そうだ…。


「ペアルックにしちゃう?」


笑う。

笑う。


やっぱり玲くんはいつも通り。

結婚なんてものを匂わせない。


あたしが聞いたケッコンは、夢だったんだろうか。

ケッコンが絡んだあれが夢で、ケッコンとは無縁な今が現実?

今、あたしは目覚めたの?


だけど覚えている、この衝動。

さっきまで感じていたこの衝動。


夢ではない。