そうだ、あたし…。

1人勝手に泣いて…玲くん置いて逃げてきてたんだ。


円満逃走していたわけじゃない。


そして…迷子。


これだけしでかして、玲くんだって…怒るよね。


救いを求めて、ちらりと久涅を見ると、


「じゃあ、邪魔者は退散してやる」


何で、いなくなる!!

あたしの訴えを判っていただろうに!!

判っていて笑って消えようとするな!!


大体あんた、何をしに此処に居るの!!?

ストーカーしてたら、最後までしててよ!!!


「頑張れよ、芹霞。"同棲"の件、考えておけよ」


「ど、同棲!!?」


手をひらひら振りながら、本当に背中を向けてしまった。


その時、うわああああという歓声が。

ドーム状の建物からだ。


「始まったか…」


久涅は冷ややかにそう言い放つ。


何が始まったんだろう…。


そう思ったら――


『さあ皆様、本日のイベント、ゲリラライブが始まりました。

熱いカップルも…更に更に燃えてくださいねッッ!!!

ではお待ちかね、"Zodiac"の新曲。


――…"ドラゴンヘッド"ッッ!!!』


マイクでそんな声が聞こえて、爆音が鳴り響く。


音に乗って響いた歌声は。


テクノ調の曲にあうよう、無機的なものに声質を変えてはいるものの――


間違いない。

Zodiacだ。


何でよりによって、ライブにぶつかってしまったのか。

うんざり、げんなりだ。


久涅が笑った。


「本日のメインイベントが始まった。

せいぜい頑張れよ、オウジサマ」


意味ありげな眼差しを、玲くんに送って。