――そうだ。この際、暑さはどうしようもないが、それを一時でも忘れられるようなものがあれば、きっと涼しく過ごせる。


ふと、そう思いついた山南は、屯所をぐるりと見渡し、何か暑ささえも忘れてしまえるようなものがないだろうか……と、静かに良い考えを模索していた。


金子(キンス)が要らず、かつ手頃に行える娯楽性のあるもの。


酷暑の中、稽古や巡察、そして様々な仕事に励んでいる隊士は、さぞかし疲労が溜まっていることだろう。


「――山南さん、どうかされましたか」


心配そうな表情で光が山南の顔を覗き込む。もしかしたら彼は山南が暑さにやられてしまったと勘違いしたのかもしれない。


「ねえ、光さん。夏ってどうすれば涼しく過ごすことが出来るのでしょうね」


「え?」


困惑したような笑みを浮かべる光だが、原田のときとは違って真面目に考え出す。


しばらくすると、ぱっと何かを思いついたように顔を上げ、にやりと悪者のように含み笑いをした。


「やっぱり、夏と言えばアレでしょう」







その夜。


屯所の前には約三十ほどの隊士が集められていた。ただ、三十という隊士が全てではなく、残り二十足らずの隊士たちは、交代して夜の仕事に就いている。


そこには、流石に近藤や芹沢、新見といった局長たちはいないが、珍しくも芹沢派の者たちが姿を現していた。


他にも土方や山南、主だった者たちもそこにいる。


(……こんなに沢山……暇なんだな)


京都守護職である松平容保公のお預かりとはいえ、所詮は浪人の集まり。壬生浪士組が如何に重きを置かれていないかが窺える光景だった。


光は隊士たちを隅から眺めていた。いつの間にか、無意識の内に人間観察をすることが常になりつつある光だが、止めようと思っても身についた癖は中々治らない。


その時、足音もなく誰かの手がいきなり肩に置かれる。手が自然と防衛のために懐を彷徨うが「何やこれ。何の集まりなん?」という聞き慣れた声に力が抜けた。


――山崎だ。